小額製

小学生の家庭教師は刺激的だ.


俺を好いてくれる人は一体何を求めているのだろうと考えた.

共に過ごす時間,と言ってくれるならありがたい.

しかし相手が小学生となるととたんに意味がわからなくなる.俺が小学生のころ,そこまで他人に好意を示したことが無かったからだ.何か見返りが欲しいのだろうか.小学生は賢く,時にずるがしこいことを身をもって知っている.彼らは(過去の俺は)いろんな役割を演じるのだ.ふざけた行為をわざとするのだ.全てを理解した上で,頭が悪いフリをするのだ.そのうち親の自身に対する思考が単純になるため,親の思考の理解が容易になることを知っていて,親をコントロールしようとするのだ.親が自分を好いていることを積極的に利用するのだ.

彼は俺に対し,何を求めているのだろう.

ある程度たって知ることになるのだが,小学生は,本当に気を許したものには全力の純粋な好意をぶつけてくるのだ.恐ろしいほどに.初めは恐らく両親に対してなのだろうが,諸々の理由により(恐らく主に親の仕事疲れにより),反抗期を迎える.たぶん.子供は自分の利益を得ることに関しては賢いくせに,それ以外では人の機微を読むのが下手なため,仕事疲れの親の適当な返答は子供心を傷つける.投げやりな返答をあまりしてはいけない.子供に対してはありったけの愛情とユーモアと育児ポリシーをもって望まなければ.

親になるなら,時に教師を演じなさい.

子供は一人前に扱われることを望んでいる.投げやりな返答,からかうような返答は時に彼らを大きく傷つける.子に対して間違ったことをし,子に対して謝らないことは彼らを激怒させる.また,不可能な命令を下す親に対して彼らはひどく反発する.

「くしゃみは音を出さないで」

子供にとってこれは不可能な命令である.

「くしゃみはなるべく音を出さないで」

と大人なら当然のように推測するところを,子供はそのまま受け取ってしまう.

それでいて彼らは特別扱いされたくもある.欲張りなのだ.


彼に対して,大人になったら何になりたいのか,と軽い気持ちで聞いてみたところ,俺のようになりたい,という旨を伝えてきた.

俺は,憧れる人が居ることが喜びであることを知っている.

別にできた人間ではないが,彼の教師となり,導こうと思う.


彼と話していると色んなことを思い出す.ああ,小学生の家庭教師は刺激的だ.